“風邪引いちゃったから、明日のデート無しにしてもいい?”
ピコンと陽気過ぎる音で届いたそのメッセージの内容は、僕の想像とは真逆のものだった。正直に言おう、僕は相当凹んでいる。三十路手前の男がデートを前日にドタキャンされたくらいで凹むなって?煩い、三ヶ月振りのデートだぞ。
最後に逢った時はまだイチョウ並木だって色付き始めたばかりだったんだ。まだちょっと早いみたいだね、と笑う彼女に微笑み返して「……今度はしっかりと紅葉してからまた来ましょうか」と呟いたのを思い出す。そう、リベンジのつもりだったんだ。
とはいえ、体調の悪い彼女を無理に連れていく気も、責めるつもりもさらさら無い。気温差で体調を崩しやすい彼女のことだから、きっとこの寒さで風邪でも引いてしまったのだろう。
“大丈夫ですか?熱は?”
“40どくらい”
変換する気力も無いみたいだ。……これは重症だな。大人の40度越えは相当辛いぞ。急に心配になった僕は、コートを掴み車のキーを手に家を飛び出した。幸いなことに、明日から連休の予定だ。そう、久々のデートだからと溜まりに溜まった仕事を片付け、連休をもぎ取っていたのだ。可愛い彼女が苦しんでいる、行かない理由は無かった。
あの様子じゃ、碌に食事も出来ていないかもしれない。遅くまでやっているスーパーに立ち寄り、食材や経口飲料水などを買う。解熱効果は無いようだが、冷えピタも買っておくか。あの高熱だ、冷やさないよりかは幾分か楽にもなるだろう。
辿り着いた彼女の玄関の前で、僕は合鍵を取り出し扉を開いた。僕が来るのを見越してか、はたまた単なる掛け忘れか内鍵は掛かっていなかった。例え掛かっていたとしてもU字ロックは簡単に開けられるから、正直もっと防犯設備のしっかりとした家に引っ越して欲しいのが本音だ。……まあ、いずれ僕の家に連れて行くつもりだから、後は僕があの組織を早く壊滅するだけなのだけれど。
玄関の中へと入り、施錠をする。カーテンが閉め切られ、灯りの付いていない寝室の方へと僕は歩いていく。センサーが反応し、灯りのついた廊下だけがやけに明るく見える。
寝室の扉を開き、彼女の名前を呼ぶが反応が無い。おでこに手を伸ばすと、彼女が薄らと瞼を開いた。
「凄い熱だ……薬は飲んだかい?」
「あ、むろさん……?」
「そう、僕です。ご飯は食べた?」
「むり、気持ち悪くて……動けない」
この様子じゃ、きっと薬も飲んでいないな。この時間でもやっている病院は、と僕は顎に手を当てて考える。……東都総合病院。あそこならここから近くて夜間もやっている。
「……病院、行きますよ」
「ん、」
クローゼットから取り出した彼女のコートを羽織らせて、その身体を抱き上げる。……軽過ぎる。もう一度合鍵を使ってドアを閉め、僕と愛車へと向かった。苦しそうに呼吸を繰り返す彼女を助手席へと乗せてシートを極限まで倒す。ここからなら十分もかからない筈だ。
「すみません、今から診察を受けたいんですが……ええ、はい。熱は40度、」
念の為、病院に電話をする。高熱だから待合室には行かずに車で待機して、直接診察室へ来てくれとのことだった。
「……歩けるかい?」
「ん、がんばる……」
「!、おっと」
助手席から一歩足を出しただけで、ぐらりと揺れる彼女の身体を咄嗟に支える。……ドアの前まで来ていて良かった。危ないところだった。
「ごめん、ぐるぐるする……」
「大丈夫。僕が連れて行ってあげますから」
高熱で視界が回るのだろう。目尻から涙を流す彼女を抱き上げて、病院スタッフの言う通りに診察室へと向かう。人の良さそうな白髪の医師が彼女を診察するのを傍で見守り、僕も一緒に話を聞く。
いつもなら「恥ずかしいから、安室さんは外で待ってて」と言いそうな彼女だが、流石にそんな気力も無いようだ。
いい大人が付添人同伴で診察室に入っても、先生は嫌な顔一つしなかった。医師からの質問に彼女が上手く答えられない時は僕が補足したりもした。
「座薬、いっとくか」
食事出来ないみたいだし、と呟いた白髪の医師はぐるぐると何やらカルテに記入している。
「大人はみんな嫌がるけど、食事出来ない時はこれが一番。挿れたらすぐに良くなるから」
「は、はあ……」
じゃ、旦那さん宜しくね。また何かあったら電話してから来て。受付で会計を済まし、薬袋を受け取った。ちらりと中を覗く。銀色のシートに包まれた特徴的な形のそれは紛れもなく座薬だ。
「……帰ろうか」
別室のソファーで横になっていた彼女を抱き上げて病院を後にする。……僕が挿れるしかないよな。腕の中で苦しそうにしている彼女を見つめ、僕は覚悟を決めたのだった──。
◇◇◇
「嫌だ、む、り!」
「……無理って挿れなきゃ、熱下がりませんよ」
「ざ、座薬なんて死んでも無理……!」
「こら、死ぬとか簡単に言わないでください……」
所変わって、メゾンモクバの僕の寝室にて僕達二人は言い争っていた。黒い僕の枕に顔を埋め、嫌だ嫌だと泣き言を零す彼女の身体をひっくり返し、腰を突き出させるように持ち上げた。
高熱で彼女が抵抗出来ないのをいいことに、僕は彼女のパジャマのズボンとパンツを脱がしていく。……いつ見ても形のいい尻だ。って、今はそんなことを考えている場合じゃない。
薬袋から座薬を取り出して、包みを開けた。確か少し舐めてから挿れると痛みが多少マシになると効いたことがある。舌で軽く濡らすように、僕は座薬を舐めた。……苦いな。
尻肉に親指を当て、彼女の尻の穴を見つめる。目線がその下の陰唇に向いてしまうのは、男として仕方がないことだった。思わずごくりと僕は喉を鳴らした。僕の下半身に熱が集まる。やめろ、やめてくれ。煩悩は今すぐ捨てるんだ。心を無にして、手にした座薬に意識を集中させる。
「……挿れますよ」
小さな太陽みたいで可愛らしい彼女の尻の穴に、座薬を押し込んでいく。彼女はまだここは使ったことがない筈だ。傷ひとつなく綺麗な形をしている。これはこれで……とまたも僕の煩悩が呼び起こされそうになるのをグッと堪えて、座薬にもグッと指を添える。
挿れてから暫く指で押さえていたほうがいいらしい。小さな呻き声を上げはするものの、すっかりと大人しくなった彼女の尻穴を押さえて暫く時が経つのを待つ。もうそろそろいいだろう、と手を離してパンツを履かせ、彼女のパジャマを元に戻した。
「ほら、終わりましたよ」
布団を肩まで掛けて、冷えピタを貼ったおでこのすぐ下の米神にキスをした。
「おやすみ。ゆっくり寝て、早く元気になってくださいね」
「ごめんね、安室さん……」
君はいつも頑張りすぎなんだ。こんな時くらい僕をもっと頼ってくれてもいいんじゃないかい?
眠ってしまった彼女を見つめて、僕は心の中でそう呟いたのだった──。